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書かない人は、書けない。
これは、わたしのライターの先輩が言っていたことです。
どこかのブログにも書いていました。
書ける人は、書いています。
書いているから、どんどんと書けるようになっていくのです。
書かない人は、いつまでも書けません。
だって、書かないのだから、書けるようになることもありません。
絵本作家でも、小説家でも、漫画家でも、画家でも、作曲家でも、例えばミュージシャンだったとしても、創作している人たちは、みんな同じだと思います。
誰に頼まれたわけでもないのに、ほっといてもやっちゃっています。書いちゃっています。
どんどんと無限に、辞めろと言われてもそれを続けてしまっています。
認められたい人からの賞賛、褒められたいとかたくさん稼ぎたいとかじゃなく、ただただそれを続けてしまうのです。
そういう人だけが、いつしかその職業になってしまって「書ける人」になるのだわたし自身もそう思います。
わたしも、やっぱりてんこ盛り書いていました。
それを考えると、今は圧倒的なアウトプットが少ない、そう自分のことを思ったりもします。
書かない人は、書けない。
大事なことなので、もう一度書きました。
これは本当です。
とりあえず、一冊だけでも絵本を作ろうと思ったその最初の気持ちを思い出してください。
書きたいという気持ちを思い出すのです。
さて、第1章です!
まずはみなさんもよく知っているこの物語を読んでみてください。
「ももたろう」
むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
おばあさんが川で洗濯 をしていると川上から、どんぶらこ、どんぶらこ。おおきな桃が流れてきました。
「 おやおや、なんて立派な桃でしょう。おじいさんへのおみやげに、おうちへ持って帰りました。
おばあさんは流れる桃をつかまえると、せっせとおうちに持って帰りました。
夜になって山から帰ってきたおじいさんに、おばあさんが言いました。
「ほら、おじいさん。ごらんなさいこの桃を」
「ほうほう、これは立派な桃じゃな。どこかで買ってきたのかい」
「買ったんじゃありませんよ、洗濯をしていたら川上から流れてきたんです」
「それはますますめずらしい。さっそく割って食べてみよう」
ほうちょう おばあさんは台所から庖丁を持ってきて、おおきな桃を割りました。
すると、おぎゃあ、おぎゃあ、桃のなかから玉のような男の子が生まれてきました。
「いやあ、これは大変じゃ」
「おどろいた、おどろいた。おばあさん、この子はきっと、天からの授かりものじゃ。
桃から生まれたのだから、桃太郎と名づけよう」
おじいさんとおばあさんは、桃太郎を大事に大事に育てました。
桃太郎は、ごはんを一杯食べれば杯分、二杯食べれば二杯分、三杯食べれば三杯分と、 みるみるおおきくなっていきました。
力もつよく、村のこどもたちと相撲をとっても、誰も 桃太郎にはかないません。
それでも桃太郎は気立てのやさしいこどもで、育ててくれたおじいさんとおばあさんへの感謝を忘れず、いつか恩返しがしたいと思っていました。
そんなある日、桃太郎のところに一羽のカラスがやってきて言いました。
「があがあ。桃太郎さん、桃太郎さん。外に出るときは気をつけて。わるい鬼たちがやってきますからね」
「があがあ。海の向こうの鬼ヶ島に、わるい鬼たちが住んでいて、まわりの国々からかすめ取った金銀財宝をかくし持っているんです」
話を聞いた桃太郎は家に帰ると、おじいさんとおばあさんに言いました。
「おじいさん、おばあさん。さきほどカラスから、鬼ヶ島のわるい鬼たちの話を聞きました。
わたしも大きくなったので、鬼たちを退治しにいきたいと思います」
おじいさんとおばあさんはたいそうおどろき、引き止めましたが、桃太郎は鬼退治に出る と言ってききません。
「それほど言うなら、行っておいて。旅の道中、さぞかしおなかも減るだろう。おばあさん、
日本一のきびだんごをこしらえてあげなさい」
おばあさんは、自慢のきびだんごをたっぷりこしらえ、桃太郎に持たせてあげました。
おじいさんは、あたらしいはかま、はちまき、刀を持たせてあげました。
「気をつけて、行ってこいよ」
ひゃくにんりき 見送るおじいさんたちに桃太郎は元気よく「日本一のきびだんごがあれば、百人力です。 鬼たちを退治して帰ってきます」と答えて出ていきました。
桃太郎が山のなかを歩いていると、一匹の犬が、わんわん、と言いながら近づいてきました。
「桃太郎さん、桃太郎さん。そんなにいさんて、これからどこへいくのですか」
「鬼ヶ島に、わるい鬼たちを退治しにいくのだ」
「お腰につけた、それはなんですか」
「日本一の、きびだんごだ」
「ひとつ、わたしにくださいな。お供しましょう」
「それではひとつ、わけてやろう」
日本一のきびだんごをひとつもらった犬は、桃太郎のあとをついていきました。
山を下りていくと、今度は木の上の猿が、きゃっきゃっ、と声をかけてきました。
「 桃太郎さん、桃太郎さん。そんなにいさんで 、これからどこへいくのですか」
「鬼ヶ島に、わるい鬼たちを退治しにいくのだ」
「お腰につけた、それはなんですか」
「日本一の、きびだんごだ」
「ひとつ、わたしにくださいな。お供しましょう」
「それではひとつ、わけてやろう」
日本一のきびだんごをひとつもらった猿は、犬と一緒に桃太郎のあとをついていきました。
桃太郎たちが野原を歩いていると、空からキジが、ケンケン、と声をかけてきました。 てきました。
「桃太郎さん、桃太郎さん。そんなにいさんで、これからどこへいくのですか」
「鬼ヶ島に、わるい鬼たちを退治しにいくのだ」
「お腰につけた、それはなんですか」
「日本一の、きびだんごだ」
「ひとつ、わたしにくださいな。お供しましょう」
「それではひとつ、わけてやろう」
日本一のきびだんごをもらったキジは、犬と猿と一緒に桃太郎のあとをついていきました。
桃太郎、犬、猿、キジの一行は、野を越え、山を越え、谷を越え、やがてひろい海に出ました。
そこで船をみつけた桃太郎たちは、海のはるか向こうにある鬼ヶ島をめざして漕ぎ出しました。
「桃太郎さん、桃太郎さん」
船の上を飛んで物見をつとめていたキジが大騒ぎします。
「まっくろな島が見えてきました。鬼ヶ島です」
桃太郎が船のへさきに立って目をこらすと、はるか彼方、もやの向こうにうっすらと島が見えます。
「やあ、やあ、あれが鬼ヶ島だ。さあ、みなの衆、こころしてかかるのだぞ」
桃太郎のかけ声にあわせて、みんな島へと上陸しました。鬼ヶ島の城には、おおきな門がとなしく扉を開けろ」
さっそく犬が 門の前に立ち、どんどん、扉を叩きます。
「さあ、鬼たちよ。日本の桃太郎さんのお出ましだ。お前たちを成敗しにきたのだぞ。
おどろいた見張りの鬼たちは、城のほうへと逃げていきます。そして、するすると門をよじ登った猿が、内側から扉を開けました。
「やあ、やあ、覚悟しろ」
桃太郎は刀を抜いて、鬼たちに襲いかかります。
犬は噛みつき、猿は顔をひっかいて、キジは空から目を突きました。
おそろしい顔をした鬼たちも、桃太郎たちの勢いにはかないません。
おおきな金棒を投げ出して、逃げていきました。
「やい、やい、おまえが桃太郎か」
城の奥まで進むと、ひときわおおきな鬼の大将が待ちかまえていました。
それでも、たく さんのきびだんごを食べた桃太郎たちは百人力。
鬼の大将めがけて一斉に襲いかかり、あっ という間にやっつけてしまいました。
「さあ、おとなしく降参するのだ」
桃太郎は鬼の大将をねじ伏せると、刀をかかげて言いました。
「ごめんなさい、ごめんなさい。降参します。城のなかの宝ものも、みんなお返しします」
鬼の大将は、手をついて、わあわあ泣きながらあやまりました。
桃太郎たちは、奪われた宝ものを船に積むと、そのまま鬼ヶ島をあとにしました。
みんな で歌を歌いながら、野を越え、山を越え、谷を越えて、おじいさんとおばあさんのもとへと帰ります。
「おじいさん、おばあさん」
心配していたおじいさんとおばあさんの耳に、なつかしい声が聞こえました。
おじいさん とおばあさんが家の外に出ると、桃太郎は三匹の立派な家来をつれて、宝ものの山を積んだ車をて引いて帰ってきました。
「さすが日本一の桃太郎じゃ」
おじいさんとおばあさんはたいそうよろこび、桃太郎をむかえました。
そして桃太郎は、おじいさんとおばあさんと三人でしあわせに暮らしました。
以上が「ももたろう」のテキストです。
できれば「桃太郎の話くらい、知ってるよ」と読み飛ばすのでなく、じっくり読み込んでみてください。
絵本だと多くてもこのくらいのテキスト量だと思います。
(3053文字)なので、400文字詰の原稿用紙だと15枚程度です。
1000文字〜3000文字この文字数が絵本のテキスト量だと思います。一冊の本だと4万文字くらいなので、
それを考えると、全然少ないです。
絵本は物語です
絵本は物語のメディアです。
ランダムに「絵」だけが並んだ本だったら、それは画集・イラスト集です。
絵に先行してテーマがあって、物語があって、さらにはその物語はテキスト化されています。
テキストと絵が組み合わされて、絵本となります。
絵本は「物語のメディア」
漫画のようにコマ割りされたり、絵の中に擬音などの描き文字が挿入されることはほとんどありません。
物語に合わせて、一枚の絵としても成立するようなイラストが並べられていきます。
絵本は「イラストのメディア」
絵本ではその物語を10枚や20枚の絵で説明していきます。
物語の中から「絶対に必要な場面」や「ビジュアル的に面白い場面」や「絵で説明しないと伝わらない場面」を抽出して、印象的な絵を描いていきます。物語の全てを絵にすることはできません。
それをやってしまうと間延びした「見どころ」不明な本になってしまいます。
例えば、映画の場合「捨てられたフィルム」をみることはできません。
選び抜かれて、全ての編集が終わった完成品しかみることは不可能です。
だけど絵本は、物語のテキストが全て残っています。
わたしたちが目にしている同じテキストをもとに、「何を捨てて、何を残して、どのように繋げていくか」を考えて
10枚から20枚の絵を描き起こしています。
絵に描かれた場面だけでなく、映画で言えば、捨てられたフィルム、絵として描かれなかった場面の全てを知ることができるのです。
「描かれたもの」と「描かれなかったもの」の両方が並んでいるメディアは絵本だけです。
「何を捨てて、何を残して、どのように繋げていくか」のトレーニングは簡単です。
実際に絵本を作ってみましょう。
1から物語を作る必要はありません。誰もが知っている昔話をもとに絵本を作ったらいいのです。
WORK(取り組む課題)
「ももたろう」を10枚の絵で説明する
「ももたろう」の物語をおさらいしたところで、「 なにを描くか」の候補を考えてみます。
WORK1
「ももたろう」の物語を複数のシークエンスに分けます。
point:「シークエンス」は日本語に和訳するのは難しい言葉だけど、映画の世界でよく使う言葉です。
それぞれのシーンの「場面」を繋げて場面の連なりによって語られる「局面」と説明するのがいいかもしれません。
文章の単位いえば、「章」それよりも一つ小さい「節」ってことなのかもしれません。上記の「ももたろう」のお話をシークエンスに分けてください。数も自由です。
WORK2
ストーリーのなかでおもしろいと思うところ、
絵にしたほうがいいと思うところ、
あるいは自分のあたまに絵が浮かんだところ。
なんでもいいから、ありったけ書き出してみてください。
point:30のシーンを書き出してみてください。3つ例を挙げておきます。
-
山の遠景とその中にあるおじいさんとおばあさんの家
-
芝刈りに行くおじいさんと洗濯に行くおばあさん
-
洗濯するおばあさんと上流から流れてくる桃
WORK3
あなたはどのシーンを選びましたか?
point:WORK1で書いた30の場面。もしも『漫画版 ももたろう』なのであれば
この30枚全て描くはずだし、さらにそれ以上描くのかもしれません。でも絵本です。およそ20枚から30枚に収めることが多いので、省略ありきです。
なので、このストーリーのなかでさらには10枚に絞るならあなたならどのシーンを選びますか?厳密には正解はありません。
「何を捨てて、何を残して、どのように繋げていくか」は正解がないだけに、真剣に考えないといけません。
WORK4
WORK3で選んだ絵のシーンの理由を考えてみましょう。
point:答えを急がないで、立ち止まって自分だけの10枚を選んだその理由を一枚一枚考えてみてください。
WORK5
WORK4で書いた理由に基づいて、その10枚の絵の場面は、物語のどこの場面に入るのかを入れてみましょう。
point:10個の場面(物語のどこの場面に入れるかのかを考えて)の絵を作るなら、どういう内容や情報が必要か箇条書きでそれぞれ書き出してください。ぼんやりとしてイメージでOKです。
WORK6
絵と文章のバランスを考えます。
point:絵があって1ページの文章の量は適切かどうか。
出来上がりの絵本を思い浮かべて、もしくは紙に書いてみて、その絵と文章のバランスはあっているか確認してみましょう。感覚的になんとなく10枚の絵を選んでしまったら、絵本としてはうまく成立してはくれません。
バランスが悪いと思ったら、また10枚絵を選ぶところに戻ってみてください。
あなたにとって「ももたろう」はよく知っている物語かもしれませんが、子どもたちにとっては、初めましての物語です。「シークエンス」に分けて考えることも大事かと思います。
大事なのは、それぞれの「シークエンス」に最低1枚は絵がないと、物語の理解は難しいと言うことです。
Aシークエンス おじいさんとおばあさん
Bシークエンス 桃太郎の誕生と成長
Cシークエンス 鬼退治への出発と家来たち
Dシークエンス 鬼ヶ島への旅
Eシークエンス 鬼ヶ島での合戦
Fシークエンス 凱旋と再会
こんな感じでしょうか? 各シークエンスから1枚づつ絵を選ぶと6枚なので、その他の4枚、追加するものは何を基準に選んでいきますか?
WORK7
出来上がった物語の全体を眺めてみます。
point:自分なりに感じたことを、紙に書き出してください。