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いったん「書くこと」の骨格を固めること。
そのためにゴールは初めに示したほうがいい。
『ももたろう』
1
ももたろうさん ももたろうさん
お腰につけた きびだんご
ひとつわたしに くださいなあげましょう あげましょう
これから鬼の 征伐に
ついて行くなら あげましょう行きましょう 行きましょう
あなたについて どこまでも
家来になって 行きましょう2
そりゃ進め そりゃ進め
いちどに攻めて 攻めやぶり
つぶしてしまえ 鬼ヶ島おもしろい おもしろい
残らず鬼を 攻め伏せて
ぶんどりものを エンヤコラバンバンザイ バンバンザイ
おともの犬や 猿キジは
いさんで車を エンヤコラ
これは童謡『ももたろう』の歌の歌詞です。
第1章その1のWORK で10枚の絵を選んで、シークエンスやシーンの観点を得た人が読むと、かなり呆れてしまう歌詞じゃないでしょうか?
この歌では、いきなり「ももたろう」として登場して、桃から生まれたことは語られず、ただきびだんごをぶら下げて鬼退治に行く、勇ましい若者になっています。
鬼の征伐を「おもしろい おもしろい」と連呼して、宝物を強奪する、描写。
冷静に読んでみると、鬼とももたろうのどちらが悪役なのかわからなくなる歌詞です。
だけど、「見せるべき絵」から考えると、この歌は理にかなっているのです。
なぜならももたろうの物語は、「鬼退治」の物語で、「家来を従えて、武勲を上げる」物語なんですよね。
「大きな桃が流れてくる」物語でも「大きな桃から生まれる」物語でもありません。
あくまでもももたろうのゴールは、鬼退治と宝物の奪還なのです。
バスの行き先理論
これは『ドラゴン桜』の作者で有名な三田紀房さんが以前WEB上のインタビュー記事で語っていたことです。
三田先生: 意識して成功例、そして失敗例からルールを作ることが大切だと思います。無意識のままでは同じことを繰り返しているだけですから。
私の場合は読者アンケートが参考になりましたね。そこからどんなものが受けるのかをルール化したわけです。もちろん、マンガ家自身の「何を描きたいか」も大切ですが、市場ニーズをきっちり分析して、そこから成功するために必要なルールを導き出すことが必要だと思います。
三田先生はそこからどんなルールを導き出されたのですか?
三田先生: 大げさに表現すること、そして「バスの行き先理論」です。
「バスの行き先理論」というのは?
三田先生: バスは必ず行き先が決まっていますよね。だから、その行き先に行きたい人しか乗らないわけです。それと同じように、『ドラゴン桜』は、「東大合格」という目標に共感する人たちをひきつけたわけです。ビジネスでも行き先=目標がはっきりしていないと、周りの人は自分についてきてくれません。だから、自分の目標や特徴というものをしっかりとアピールして、それに賛同してくれる人を集めれば、きっと成功できると思います。
バス停で待っていると、向こうの方からバスが1台やってきました。
バスの全面、フロントガラスの上には「大阪駅行き」「なんば駅行き」などバスの行き先が表示されています。
だから、乗客は安心して目当てのバスに乗って移動時間を楽しむことができます。
一方、もし行き先が表示されていない正体不明の「ミステリーバス」に押し込まれたら、不安だらけになってしまいます。
同じことは漫画や物語にも言えます。
高校野球の漫画なら、早い段階で「甲子園に行くぞ」「甲子園で優勝するぞ」というゴール。
これを示した方がいいのです。
そうすることによって、読者は安心して、そのバスに乗り込むことができます。
ゴールや行き先が不明のままずるずる始まる漫画は、なかなか読者が乗車してくれません。
高校野球の漫画なら、野球部に入部しないまま何話も続くような漫画など、本当に信頼できるバスなのか、変なところに連れて行かれはしないか、と半信半疑のまま様子を見てしまう、これが「バスの行き先理論」です。
この原則で考えると、童謡の中ではももたろうの出生について延々と語るのは間違っています。
物語では、早い段階で主人公の名前を語り、作品のジャンルを示して、「鬼退治」のゴールを明らかにした方がいいのです。
主人公とゴールの提示から入って、アクションシーンを存分に描き、エピローグ的にぶんどりものを持ち帰る姿を、軽快に描いている歌詞は、「バスの行き先理論」から言うと正しい構造です。
コンテンツとしての本は、全てが「課題解決」を目指すプロセスとして存在しています。
コンテンツには、何らかのゴールがあります。
そのゴールとは課題が解決された姿、です。
自分たちを乗せたバスはこれからどこを目指して走り出すのでしょうか?
その行き先をなるべく早くに提示するようにしてください。
全ての原稿に当てはまるわけではありませんが、もったいぶってはいけません。
WORK(取り組む課題)
「バスの行き先理論」の話を踏まえたうえで前回のワークをもう一度やってみてください。
ももたろう」を10枚の絵で説明する
「ももたろう」の歌のおさらいしたところで、「 なにを描くか」の候補を考えてみます。
もしもできるのであれば、自分で別の物語を持ってきて、練習してみてもいいかもしれません。
例になる物語がなければ、こんな話はどうですか? 以前わたしが書いた物語です。
WORK1
「ももたろう」の物語を複数のシークエンスに分けます。
point:「シークエンス」は日本語に和訳するのは難しい言葉だけど、映画の世界でよく使う言葉です。
それぞれのシーンの「場面」を繋げて場面の連なりによって語られる「局面」と説明するのがいいかもしれません。
文章の単位いえば、「章」それよりも一つ小さい「節」ってことなのかもしれません。上記の「ももたろう」のお話をシークエンスに分けてください。数も自由です。
WORK2
ストーリーのなかでおもしろいと思うところ、
絵にしたほうがいいと思うところ、
あるいは自分のあたまに絵が浮かんだところ。
なんでもいいから、ありったけ書き出してみてください。
point:30のシーンを書き出してみてください。3つ例を挙げておきます。
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山の遠景とその中にあるおじいさんとおばあさんの家
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芝刈りに行くおじいさんと洗濯に行くおばあさん
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洗濯するおばあさんと上流から流れてくる桃
WORK3
あなたはどのシーンを選びましたか?
point:WORK1で書いた30の場面。もしも『漫画版 ももたろう』なのであれば
この30枚全て描くはずだし、さらにそれ以上描くのかもしれません。でも絵本です。およそ20枚から30枚に収めることが多いので、省略ありきです。
なので、このストーリーのなかでさらには10枚に絞るならあなたならどのシーンを選びますか?厳密には正解はありません。
「何を捨てて、何を残して、どのように繋げていくか」は正解がないだけに、真剣に考えないといけません。
WORK4
WORK3で選んだ絵のシーンの理由を考えてみましょう。
point:答えを急がないで、立ち止まって自分だけの10枚を選んだその理由を一枚一枚考えてみてください。
WORK5
WORK4で書いた理由に基づいて、その10枚の絵の場面は、物語のどこの場面に入るのかを入れてみましょう。
point:10個の場面(物語のどこの場面に入れるかのかを考えて)の絵を作るなら、どういう内容や情報が必要か箇条書きでそれぞれ書き出してください。ぼんやりとしてイメージでOKです。
WORK6
絵と文章のバランスを考えます。
point:絵があって1ページの文章の量は適切かどうか。
出来上がりの絵本を思い浮かべて、もしくは紙に書いてみて、その絵と文章のバランスはあっているか確認してみましょう。感覚的になんとなく10枚の絵を選んでしまったら、絵本としてはうまく成立してはくれません。
バランスが悪いと思ったら、また10枚絵を選ぶところに戻ってみてください。
あなたにとって「ももたろう」はよく知っている物語かもしれませんが、子どもたちにとっては、初めましての物語です。「シークエンス」に分けて考えることも大事かと思います。
大事なのは、それぞれの「シークエンス」に最低1枚は絵がないと、物語の理解は難しいと言うことです。
Aシークエンス おじいさんとおばあさん
Bシークエンス 桃太郎の誕生と成長
Cシークエンス 鬼退治への出発と家来たち
Dシークエンス 鬼ヶ島への旅
Eシークエンス 鬼ヶ島での合戦
Fシークエンス 凱旋と再会
こんな感じでしょうか? 各シークエンスから1枚づつ絵を選ぶと6枚なので、その他の4枚、追加するものは何を基準に選んでいきますか?
WORK7
出来上がった物語の全体を眺めてみます。
point:自分なりに感じたことを、紙に書き出してください。